人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「殿下はねぇ、私の獲物なの。だから死なれると困るのよ」

 シーッと唇に手を当てたアリアを見て男は驚いたように目を見開く。いい子にしてね、と囁くアリアに男が頷くのを確認し、アリアは足を外す。

「私以外が殿下に引導を渡すなんて許さない」

 そう、アリアは目下ロイとの賭け事真っ最中なのだ。
 こんなところで小説の主人公であるロイが死ぬとは思えないが、離婚届にサインをもらう前に怪我でもされて有耶無耶になったら堪らない。こっちは頼れる侍女マリーの信頼と好感度を失墜させ、負傷している肩に無理を強いて、姉夫婦まで巻き込んでいると言うのにだ。

「……あなた、も……皇太子を……狙って……?」

「そう。だから殿下の頭上に暗雲が立ち込めると困るのよ。動きにくくて仕方ない。殿下の居所と計画を吐きなさい。今回で終止符を打ってやるわ」

 物語から退場して悪役姫引退のためにアリアは今回のロイとの勝負をどうしても負けるわけにはいかない。
 どうせロイに返り討ちにされるだけなのだから暗殺計画なんか別の機会にでも勝手にやればいい。
 そんなアリアの心情など知るはずもない男は、勝手にアリアもこちら側なのか(ロイに消えて欲しい人間)と勘違いする。

「……馬に、細工を……休憩所だ。青い薔薇が仲間だ。ともに奴を仕留め……て」

 息も絶え絶えにそう漏らした男の鳩尾に容赦なく拳を叩き込んだアリアは、

「やけにあっさり吐いたわね。仲間まで教えてくれるなんて親切」

 そうつぶやいてふむっと周りを見回す。
 7人の男が地面に伸びている状況。果たしてこれはどう処理するべきかと頭を悩ませる。
 暗殺者なのだしいっそのことこのまま返り討ちにしてもいいのだけれど、意識のない人間を痛めつける趣味はアリアにはないし、きっと後でロイ達が回収して諸々聞き出すだろう。
 うーんと考えた結果時間が勿体ないので、

「コレとりあえず縛り上げて転がしといていいかな?」

 手持ちの紐で絶対に解けないように縛り、武器も全て取り上げた。目が覚めて自害でもされたら困るし、魔法を唱えられても困るのでガッツリ猿ぐつわも噛ませる。
 ついでなのでバッチリ顔を見られて身バレした相手には、アリアの事を話せないように制約魔法もかけておいた。

「ふふ、相手を騙して一方的に打ちのめすなんて、私超悪くない? どうよ、ロイ様。私のこと悪役姫諦めた方がなんてダメ出ししてたけど、私ちゃんと悪役できるじゃない!」

 ロイからの悪役姫へのダメ出しに地味に凹んでいたアリアは、やってやったぜとばかりにここにいないロイに向けてドヤる。
 そして手元の懐中時計に目を落とし、休憩所に向かって走り出した。
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