【コミカライズ】人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「元々言葉で伝えられることなんて、きっとギリギリに水を溜めたコップからどうしようもなく溢れ出した水滴くらい少なくて、立場というものがあれば更に溢せる量は少なくなるの」

 分かるでしょう? とフレデリカの空色の瞳が尋ねる。
 父もそしてキルリアにいる一番上の兄もそうだ。落としたその言葉には、責任が伴ってしまうからどうしたって紡ぐ言葉は慎重で、数が少なくて。そして、多分それは皇太子であるロイも同じだ。
 それでもロイとは違い父や兄の真意が分かるのは、それが自分を思っての事だと信じられるのは、そこに為人を知った上での確かな"信頼"があるからだとアリアは思う。

「事実、は誰が見ても変わらないけれど、真実は見る角度で形を変えるわ。一方向だけでは分からない"真実"とやらが見たいならそれ相応の覚悟と信頼が必要ね。そうして情報をかき集めて対策した先で、あなたの成し遂げたいモノが得られる、かもね?」

 それ相応の覚悟。
 アリアはフレデリカの言葉を噛み締めるように心に刻む。
 ロイとヒナが幸せになる大筋を変えずに、アリアが望む悪役姫退場の筋書きに変えるには、ロイの事を知ったつもりで深く知ろうともせず、一方的に拒絶して無策に離縁を迫ってもダメだと言う事だろうか?

(心が揺れてしまうから、向き合うのが怖かった……けど、このままじゃダメなのかも)

「ねぇアリア? アリアはアリアのままでいいのよ。大丈夫、確かに帝国淑女の風潮にはそぐわないかもしれないけれど、あなたの活躍に心惹かれる人もいるはずよ。強くありなさい、アリア。キルリアの姫の名に恥じない様に。自分を好きだと誇れるように」

 フレデリカの言葉にアリアは顔を上げる。
 
「少なくとも私はアリアが大好きよ」

 そう言って笑いかけてくれるフレデリカにアリアは抱きつく。

「私も、お姉様が大好きです」

 まだ悪役姫と呼ばれていない今、自分のことを大好きだと信じてくれる大事な家族がいる。1回目の人生で、自分はどうしてこんな大切な繋がりを蔑ろにしてしまったのだろうとアリアは悔やむ。

(今度は、絶対無くさない。だから、物語から退場するの)

 そのために必要なのは、自分の覚悟とロイからの信頼。
 アリアは拒絶して目を逸らしていた部分と向き合う事を決めた。
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