人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「手紙、書こうかな」

 会いたい、と一度思ってしまうとその思いがとめどなく沸いてきて溢れそうになる。

「アリアの国はそれだけきょうだいがいて、継承権争いは起きないのか?」

「ルシェお兄様が優秀ですし、欲しければみんな自力で取りに行きます。そういう国なんです。うちは」

 仲がいい、だけではないかもしれないし、必ずしも一枚岩でもないのかもしれない。
 だけど、目を閉じて思い出す故郷は、いつだってアリアにとって優しいものだった。

「適材適所。成るべき人が成ればいい。代わりはいくらでもいるんです。たとえ、それが玉座に座る人間だとしても」

 みんなそれを知っている。だから、何かがあっても託せるように、相手を大事にする。
 本当に、人が宝のような国だった。

「……会いたい、なぁ」

 ロイに大人しく撫でられながら、アリアはぽつりと言葉を落とす。

「お父様、お母様、ルシェお兄様、アレクお兄様、フレデリカお姉様、ローラお姉様、ユリアお姉様、他にもみんなに会いたい……な」

 慕う様に紡がれるアリアの大事な人達の名前を聞きながら、ロイはただ羨ましいと思う。それほど大事だと思う相手がいるアリアの事も、アリアにとって名を呼ばれるほど恋しく思われる存在も。

「アリア、星を取りに行こうか?」

 しんみりとしてしまったアリアの頭を撫でて、ロイはアリアに静かに話しかける。

「星?」

 淡いピンク色の瞳が開かれて、ロイの言葉を繰り返す。

「約束したからなぁ」

 もういい時間だし、と言ってアリアの手を引いたロイは本棚を押して何かを操作する。
 ガチャッと音がして開いた先には真っ暗な通路が繋がっていた。

「こんなところにあるんですね」

「なんだ、驚かないか」

「まぁ、あるだろうなとは思ってました。うちにもありますし」

 魔法でランプに明かりを灯したロイは、隠していた箱からローブや靴をアリアに渡す。

「殿下、手慣れ過ぎてません?」

「まぁ、ガキの頃から割とよく抜け出してたからな」

 自分もそれなりに覚えがあるので、けしてヒトの事は言えないが、ロイは随分とわんぱくだったらしい。
 小説に出て来ないそんな彼の過去も3回目にして初めて知った。
 楽しそうに部屋を抜け出すロイの後を追って、アリアは音もなく付いて行った。
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