君を忘れてしまう前に
「あれ。仁花、気づいてないの? 周り見てみなよ」
みつきに言われ中庭を見渡すと、クラシックとJ−POPの生徒達があちこちで会話を交わしている。
学内の様子が今までと明らかに違う。
サラは首を傾げて、にこやかに唇を開いた。
「コンサート、成功してよかったな」
じわじわと胸が熱くなる。
あの日のわたし達の演奏は確かに伝わっていた。
それが、こんな形で知ることになるなんて。
自分の演奏を聴いて、なにかを受け取ってもらえたなんて心から嬉しい。
もっと上手くなりたい。
そしてもっと自由に音楽を楽しみたい。
そのためには、これからたくさん練習を積み重ねてもっと演奏が上手くならないといけない。
「あ、予鈴だ。そろそろ行こ、仁花」
「サラ、今日も授業が終わったら練習するの?」
「するよ」
「わたしも! 今日からまた一緒に頑張ろうね。じゃあ、また後で!」
大きく手を振ると、サラはこちらに向かって軽く手を上げた。
見たこともないくらい、穏やかで優しい笑みを浮かべながら。
「じゃあな。練習が終わったら迎えにいくよ」
『君を忘れてしまう前に』
〈了〉
