君を忘れてしまう前に


「あれ。仁花、気づいてないの? 周り見てみなよ」

 みつきに言われ中庭を見渡すと、クラシックとJ−POPの生徒達があちこちで会話を交わしている。
 学内の様子が今までと明らかに違う。
 サラは首を傾げて、にこやかに唇を開いた。

「コンサート、成功してよかったな」

 じわじわと胸が熱くなる。
 あの日のわたし達の演奏は確かに伝わっていた。
 それが、こんな形で知ることになるなんて。
 自分の演奏を聴いて、なにかを受け取ってもらえたなんて心から嬉しい。
 もっと上手くなりたい。
 そしてもっと自由に音楽を楽しみたい。
 そのためには、これからたくさん練習を積み重ねてもっと演奏が上手くならないといけない。

「あ、予鈴だ。そろそろ行こ、仁花」
「サラ、今日も授業が終わったら練習するの?」
「するよ」
「わたしも! 今日からまた一緒に頑張ろうね。じゃあ、また後で!」

 大きく手を振ると、サラはこちらに向かって軽く手を上げた。
 見たこともないくらい、穏やかで優しい笑みを浮かべながら。

「じゃあな。練習が終わったら迎えにいくよ」






























『君を忘れてしまう前に』

〈了〉


< 89 / 89 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:55

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

振り解いて、世界

総文字数/105,283

恋愛(純愛)114ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「前から言おうと思ってたけど。 おれ、男だから」 九内 晴廉 26歳 (くない せれん) 国内屈指のスタジオミュージシャン 若手人気ベーシスト × 「これからは、女の子の気持ちは弄ばないで。 これ絶対だからね」 高園 いろ巴 26歳 (たかぞの いろは) 超鈍感 恋愛ド素人の売れない貧乏ピアニスト ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ひょんなことから二人は同居することに。 「一人で寝るの寂しい? 一緒に寝る?」 「寂しくない! 寝ない!」 ただの友達だったはずなのに、 同じ時間を過ごすことで 少しずつ変化していく二人の関係――。 ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ 「ずるいな、いろ巴は。 はっきり言って欲しい?」 「おれ、そろそろ限界なんだけど。 どうしてくれんだよ、ばか」 「もう黙って。顔上げて」 ✳スタジオミュージシャンとは、   アーティストのレコーディングや  テレビの音楽番組、ライブツアーなどで  演奏するバックミュージシャンのこと。  バンドものとは一味違う、  オトナ向けのラブストーリーです。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop