本当の悪役令嬢は?
「まず、わたくしが妹であるミリアンを未遂とはいえ殺害しようとするなんてありえません。なぜ、そういうことになっているのでしょうか?」

「言い逃れできると思っているのか!」
 
 会場に反響するほど声を張り上げたのは――セドリック王太子だった。
 輝く金髪に秀でた額。すっきりした高い鼻に薄い唇。そこにたたずむだけで注視して見惚れてしまう容貌の持ち主だ。
 
 そして、アドリーヌの婚約者。彼女は次期王太子妃であった。
 
 しかし彼女の翠の瞳に彼の姿が映っても揺れる熱い想いなどはなく、冷静に見つめる眼差しがあるだけだ。
 それはセドリックにも言える。
 蒼穹の瞳には、はっきりと怒りの感情を乗せてアドリーヌを見据えていた。
 
 二人の間には既に『愛』というものは当に失せているのは一目瞭然である。
 
 彼は無駄に大きな声を出し、アドリーヌに向かって指を差す。
「貴様はお茶の席でミリアンに毒入りの紅茶を飲ませた。貴様もともに伏したが、ミリアンと違って軽く済んでいる。対してミリアンは意識が混濁し、重体にまで陥ったのだ! 貴様はことあるごとにミリアンを殺害しようとしていた。階段から突き落とし、上から物を落とし、その上、外出する際に馬車にまで細工をした。それだけではない、調書によるとミリアンはオベール家に引き取られた時から、アドリーヌ主導で酷いいじめを受けていたと書かれている」

「……ミリアンは、そんな風にわたくしのことを……」
 アドリーヌから、ガッカリしたような声が漏れた。

「ミリアンに関しては、彼女にとって貴族令嬢としての嗜みを身につけてもらうために厳しくしたのですが……妹はそう思わなかったようですわね。あと――今、セドリック様があげられた事件に関してですが、身に覚えのないことでございます。逆にわたくしはミリアンの身の上を心配して、駆けつけ、慰め、解決に努めました。……残念ながら突き止めることはできませんでしたが」

「そこが怪しいのだ。なぜ、ミリアンを害しようする者を捕らえることができなかったのか?」
「証拠がないのです。自白させるしか方法はございませんでしたが、誰も『知らぬ存じぬ』で、怪しいと思われた者たちは事件の直後に姿を消しておりました」
「言い逃れでもするつもりだったか?」
 
 セドリックは微かに笑うと指を鳴らす。大げさに扉が開き、そこに視線が集中した。
 
 アドリーヌの顔があからさまに歪む。



< 2 / 14 >

この作品をシェア

pagetop