本当の悪役令嬢は?
 大勢の視線が集中する先にいたのは、若い女性と中年の男性だ。
 服装やおどおどとした公の場に慣れていない様子から、中級層の民であるのは一目瞭然であった。

「両方とも以前、オベール家に使用人として仕えていた者だ。先ほど私が述べた事件のあと行方知れずになっていたのを探し出して、ここへ証人として連行した」
 おお、という感嘆の声と尊敬の念の籠もった貴族たちの眼差しがセドリックに向けられる。

「直後に姿を消した、というのは確かであろう。しかし、それはアドリーヌ、貴様が命じてそう手配をしたからだ。――そうであろう?」
「へ、へい」
「……その通りでございます」
 二人の告白に会場がどよめく。
 
セドリックは得意げな顔をして、隠し持っていた小瓶を掲げる。
「そして、ミリアン殺害に使用した毒の瓶も押収してある。この毒を作った魔女を突き止め、貴様が購入したと認めたぞ!」

「魔女など知りません! わたくしが購入したというなら、その魔女をここに連れてきてください!」
「……認めぬ、というのだな? よかろう!」
 セドリックが他の兵士に目配せする。しばらくすると、黒いマントのフードを深く被った老女が兵士に連れられ、入ってきた。
 
アドリーヌの顔色が一瞬にして蒼白になった。
 紅い紅で美しく彩られた唇を嚙みしめる様子が周囲にもわかり、言い逃れできない様子が伝わる。
 
彼女の『根拠のない自信』が、崩れた証拠であった。




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