忘れえぬあなた ~逃げ出しママに恋の包囲網~
「ねえ、これって会社の車?」

尊人が手配してくれた運転手さん付きの車は、見た感じ社用車に見える。
けれど、後部座席にはチャイルドシートが設置されていた。

「会社のって言うより、三朝家の車かな。うちの専属運転手さんが運転しているよ」
「そうなんだ。じゃあ、このチャイルドシートも・・・」
きっと、わざわざ取り付けてもらったんだろうな。

「凛人君を乗せるのに必要だろうと思って、つけてきてもらったんだ」
「そう、わざわざありがとう」

「バカだな。そんなことに気にしなくていいから、沙月はお母さんの心配をしていろ」
「うん」

小さな子供を連れた母親って周りに気を使うことばかりだから、嫌な顔もせずにこういう気づかいをしてくれることがとてもうれしい。
もし尊人がいなかったら、私は凛人を抱えて動揺し慌てていたことだろう。

「きっと大丈夫だ」
「そうね」

確かに、徹もそんなに焦った様子ではなかった。
ただ、いつ倒れたのかわからないのと、まだ意識が戻らないのが不安でしかたない。
とにかく母さんの元気な顔を見るまでは安心できない。
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