忘れえぬあなた ~逃げ出しママに恋の包囲網~
「妊娠がわかった時、尊人に知らせようとはしたのよ。MISASAに行ってもみたし、電話をして取り次いでほしいともお願いしたの。でもダメだった」

そりゃあね、どこの誰かもわからない普通の女の子がMISASAの専務に取り次いでほしいと言っても無理に決まっている。
何度か電話をして、結局私が諦めてしまった。

「そうか、当時は俺もアメリカ勤務で日本にいなかったから」
「そうだったのね」

悲しいことだけれど、小さなすれ違いが重なってことね。

「沙月、苦労をかけたな」
私の手を包み込むように握る尊人の手がとても暖かくて、私はそっとうつむいた。

今日は叱られる覚悟でいた。
凛人から父親を奪い、尊人に嘘をつき続けたことを責められるものと思っていたのに、尊人は優しい言葉をかけてくれる。
そのことに、私は泣きそうだった。
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