忘れえぬあなた ~逃げ出しママに恋の包囲網~
「一つだけ、俺は今すごく後悔していることがあるだ」
「何?」

「お父さんが生きていらっしゃるうちに、ご挨拶がしたかった。僕が沙月のことを幸せにしますって言いたかった」
「・・・尊人」

嘘をついて5年も騙していた私に対してこんなに優しくしてくれる尊人に、私は感動した。
同時に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「今更だと思うが、俺は沙月との将来を真剣に考えていたんだ。とは言え、あの頃まだ学生だった沙月にプレッシャーをかけたくなかったし、ご両親のこともあってうちのような家に嫁ぐことに抵抗があるのも知っていた。あと数年して沙月が結婚を考える年齢になるまで待って結婚を申し込むつもりだったんだ」
「そんな・・・」
そんなことも知らず、絢子さんの言葉を信じて二人の関係を終わらせようとしたなんて、本当にバカね。

「尊人、ごめんなさい」
「もう謝るな。沙月を不安にさせた原因は俺にもあるんだから」
「でも・・・」
やっぱり悪いのは私だろう。

「これからは何でも話そう。どんな小さなことでも、二人で相談しよう」
「はい」

もう、どんなことからも逃げない。
この時の私はそう決心していた。
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