忘れえぬあなた ~逃げ出しママに恋の包囲網~
「まま、ぴちゃぴちゃだね」

会社からの帰り道、カッパは着たものの靴のまま水たまりに入る凛人がなぜかうれしそうにしている。

「濡れるからお水のないところを歩いてね」
「はーい」
返事はいいものの、水たまりを見つけてはピチャピチャと入って行く凛人。

はあー。
私はついため息をついた。
子供にとっては、雨も水たまりも楽しくて仕方がないのだろう。
私も子供の頃そうだった気がする。
でも、せめて長靴を履いてこさせればよかったな。
そうすれば水たまりだって平気だったのに。
今は凛人お気に入りの真っ赤な運動靴がビショビショになってしまっている。

「ねえ凛人、危ないから1人で行かないで」

手を離し、私の数歩前を行く凛人に声をかけた。
その時、

ビシャッ。
車道を走っていた車が跳ね上げた雨水が舞い上がった。

「凛人っ」
私は咄嗟に息子のもとに駆け寄り、
「ままー」
びっくりしたのか飛びついてきた凛人を抱きしめた。

そういえば、彼に初めて会った時もこんなことがあった。
確か、あの日も雨だった。
思い起こした5年前の記憶。
それは、偶然の出会いだった。
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