秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
「……っ、そんな」
「もちろん、俺がそう望んだところで君の気持ちを今すぐどうにかできるとは思っていない。だから、また訪問させてくれ」
秋人はひと息に言うと、私が用意した紙袋を自然な動作で手に取った。
「じゃあ、俺はこれで」
どう答えていいか迷っているうちに、秋人は笑顔を残して踵を返す。
あんなことを言ったのに、秋人はまだ自分を好いてくれている事実が嬉しい。
本当に本当に嬉しいのだ。
しかし同時に、“絶対に駄目だ”と“今の幸せな環境を崩すのか”と、もうひとりの私が耳元で囁く。
私は秋人の父に妊娠している事実を告げず、勝手にあやめを産んだ。
もしあやめを産んだ事実が葛城堂に広まったら、秋人の立場はどうなるのだろう?
そして秋人自身にも、どんな反応をされるのかが怖い。
怒りをぶつけられるということはないだろうが、絶対に戸惑いはするだろう。
今と変わらない思いを私に抱き続けてくれるのだろうか。
何よりあやめを、拒絶されてしまったら……?
マイナスな感情に飲まれそうになっていると、すぐ近くから山根さんの「ありがとうございました~!」という、秋人を見送る元気な声が聞こえてきた。
慌てて私もあとに続くと、山根さんはくるっと振り返る。
「瀬名ちゃん……! 今保育園からお電話がきてるわよ」
「えっ?」
「先生を電話口で待たせてるから、すぐに代わってきてくれる?」
申し訳ない気持ちで山根さんにその場を任せ、すぐにバックヤードに戻る。
今朝は元気いっぱいだった結愛が、急に高熱を出し、体調を崩したようだ。
こうなってしまうと、どうにもできない。
元々今日は私が早迎えの予定でいたので、フルタイム出勤している父と母よりも融通が利く。
なるべく早い時間でお迎えに行くために、もう一度店頭に戻り、山根さんにその旨を話す。
「うんうん、大丈夫よ。こっちはどうにかするから迎えに行ってきて。あと、瀬名ちゃん……彼……」
「え?」
山根さんが遠慮がちに視線を向けた先に、帰ったはずの秋人が立っていた。
息を飲んで驚いているうちに、彼は私のもとにやって来る。
「早く子供を迎えに行かなくちゃならないんだろ? 帰るついでだし、車で送って行く」