秘密の授かり出産だったのに、パパになった御曹司に溺愛し尽くされています
「うん。色々と家に帰っても病院の用意もしなくちゃいけないし、自転車でも保育園までそこまでかからないから」
そんなのはただの建前だ。秋人にあやめを会わせることは良心が痛む。
こんな状況だけれど、さすがにそこまで甘えることはできない。
「結愛がいいと言うなら、それでいいんだが……」
ちらりと視線を横に送ると、秋人は思い耽るように遠くを見つめていた。
どこか険しい横顔に、高ぶっていた感情が波を引くように消えていく。
秋人……?
「結愛、その子は今何歳なんだ? 性別は女の子なのか?」
「!」
秋人の低い声に身が引き締まる。彼の緊張が伝わってきて、あたりの空気が薄くなった。
「そう……あやめって言う名前の女の子。今は二歳よ」
「二歳、か……。顔は、結愛に似ているのか?」
「え……?」
膝に置いていた手を思わず強く握る。
どう答えるのが正解なのだろう。
秋人に私への気持ちを断ってもらうには、“ありのまま”を伝えた方がいいのだろうか。
苦しいよ、秋人。
鼓動がズキズキと鋭い音を立て、体に響いている。
「……ううん、お父さん似。私にはまったく似てなくて、美人なの」
秋人は案の定、傷ついたように黙り込んだ。
しばらく重たい沈黙が流れた。
窓の外を眺めながら時間が経つのをじっと待っていると、小さなため息が聞こえ引き戻された。
「正直、結愛に子供の話を聞いたとき、諦めようか本気で迷った」