悪役令嬢リセルの恋
「ごめんなさい。せっかくとってくれたのに」
「いいんだ。リセルの思う通りにすればいい。これからもずっと、そうすればいいよ」

 ──え、今、名前を……。
 たかが名前を呼ばれただけなのに、張り裂けそうに胸が高鳴っている。
 認めないわけにはいかない。もう後戻りできないほどにクロードのことを好きになっている。
 クロードのことをもっと知りたい。けれど、それには自分のことも話さなければならない。
 ──まだ、勇気が出ない。
 それに彼の気持ちも確かではないのだ。まだ恋人でもないのに、フードを被る理由を詮索して嫌われたくない。
 おしゃべりをしつつ彼のエスコートのまま歩いているうちに、人気の少ない場所にきていた。祭りを楽しむ人の声が遠くに聞こえる。

「リセルは皇宮で開かれる舞踏会には行くのか?」
「ええ……お母さまにも参加するように言われているし、姉と一緒に行くわ……あ、その、クロードは?」

 勇気を出して名前を呼んでみれば、くすぐったさが胸の内に広がる。甘酸っぱいような、不思議な感覚だ。

「もちろん……俺も強制参加なんだ。儀礼だけで相手をするダンスなどつまらないものだと思ってる」

 ぴたりと足を止めたクロードがリセルに向き合うように立った。

「だけど、リセルのおかげで舞踏会に行く楽しみができた。俺はきみに最初のダンスを申し込むつもりだよ。だから、受け取ってほしいものがあるんだ」
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