悪役令嬢リセルの恋
 舞踏会の当日。晴天に恵まれた空には、朝から皇太子を誕生日を祝う花火がいくつも上がり、帝国は祝祭ムードに染まった。
 舞踏会の開始時刻は夜の七時だ。
 リセルは朝から香油入りの風呂に入って体を磨き上げ、念入りに準備をする。
 ドレスは特注で赤毛によく合う薄紅色。ヘアアクセサリーはもちろん、クロードにもらったものだ。
 祭りの夜、髪にさっとつけられたそのアクセサリーは、屋敷に戻って外したら蝶の形にいくつものダイヤがちりばめられていた。

「すごく、高価なものだわ」

 こんな高級品を手に入れられる人は高位貴族しかいない。伯爵以上、もしかして公爵かもしれない。
 時刻は午後五時。もうそろそろ悪役令嬢リセルとして、最後の役目をしなければならない。
 シンデレラは伯爵夫人に屋敷中の掃除を命じられ、必死にこなしている最中だ。それが終わらなければ舞踏会に行かせてもらえない。

「リセル、準備はできた? 出かける前に屋根裏部屋に行くわよ。あいつ、生意気にもドレスを作ったみたいなのよ。自分の身のほどもわきまえないんだから。しっかりと、夢を壊してあげないと」

 姉はにやりと酷薄に笑う。

「引き裂くようにって、お母さまの命令よ」

 姉と一緒に屋根裏部屋に着くと、シンデレラのドレスは素人が仕立てたものと思えないほどに美しかった。
 白地にたっぷりとレースがあしらわれている。施されたリボン飾りはどれもリセルが購入したものが使用されていた。
 ──シンデレラによく似合ったはず。

「笑っちゃうわね。こんな流行遅れのデザインで舞踏会に行こうとしてたなんて。ほんと、ダサいんだから。ほら、リセル急ぐわよ。ハサミ持って」
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