悪役令嬢リセルの恋
 リセルが顔を上げると、はるか遠くの高台にある玉座に、皇太子が座っているのが見えた。
 金髪で白を基調とした盛装をしている立派な男性。リセルの位置からは、それだけしかわからない。

「なによ。殿下はちっとも玉座から下りないじゃない。ダンスする気はないの?」

 姉が悔しげにつぶやき、ガリっと爪を噛んだ。
 皇太子はひじ掛けに腕を預けた姿勢で微動もしない。
 無礼講とはいえ、皇族が玉座に座っているうちは声をかけることができない。ホールにいる誰もが話しかけたくても、遠巻きに様子をうかがうことしかできないのだ。

「お姉さま、素敵な令息がたくさんいますわ。ほら、あの方とか、どうですか?」

 リセルが適当なところを示すと、偶然にも令息たちのグループがあった。
 姉の表情が見る間に獲物を狙う雌豹に変わっていく。

「ええ、そうね。リセルよくやったわ。あの方は多分大公国の公子さまよ。肩に公家の紋章が見えるでしょ。彼に声をかけなさい。私はあとから行くから。うまく会話をするのよ」

 どんっと押され、「公子さまは黒髪の人よ!」と目標を決められ、リセルは仕方なく談笑している令息たちに近づいていく。
 黒髪の令息は背が高く、麗しい顔つきをしている。堂々としていて気品があり、姉の言った通り、たしかに紋章のブローチを着けていた。
 ──とにかくさっさと済ませて、クロードを探さなくちゃ。
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