悪役令嬢リセルの恋
 華麗に体の向きを変え、黒髪の公子のもとへ急ぐ。その行く手に、大柄の男性がぬっとあらわれた。
 今度は誰が邪魔をするのかと、警戒しつつみると青狼の騎士であった。

「ご令嬢、お久しぶりです」
「あ、ミジンコの騎士……」

 思わず口にすると、彼はきまり悪そうに口元に拳を当てコホンと喉を鳴らした。

「ミジンコではなく、アクセルです。その節は大変失礼をしまして……いや、そんなことより! ご令嬢、動かないでいただきたい」
「え、どういうことですか?」

 急激にザワザワザワと周囲が騒がしくなった。

「まあ、あちらをご覧になって」
「誰にお声をかけられても、見向きもされないなんて。どうなさったのかしら」
「どのお方のもとに行かれるのか」

 様々な声でささやかれている。
 アクセルが二ッと笑って礼を取り、「わが主君がまもなくいらっしゃいますので」とのたまい、退いた。

「主君って……」

 さーっと人が割れ、リセルの前に現れたその人は、輝く金髪に青い瞳の精悍な顔立ち。白地に金の装飾の施された盛装姿。帝国の皇太子、セドリックだった。

「まさか……」

 リセルは呆然と彼を見つめた。
 ──クロード……。

「探したよ、リセル」

 リセルを見つめるやさしい笑みは、町で会ったときのそれと変わらない。

「あ、あの」

 戸惑いを隠せないリセルに、クロードはスマートに手のひらを差し出した。
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