悪役令嬢リセルの恋
 みながダンスを申し込んでいる。クロードは誰かと踊らざるを得ないだろう。
 リセルが中央から退くと、すぐに姉が近寄ってきた。

「私を差し置いて殿下とダンスするなんて、どういうことなのよ! 常に譲りなさいって言ってるでしょ!」

 姉は二十五歳。お相手をえり好みしすぎたせいで婚期を逃し、焦っているのはわかる。だからといって、クロードを譲ることなんてできやしない。

「いつ殿下と知り合ったの!? 私を紹介しなさいよ! 私がシルフィードの後継者なんだから尊重しなさい!」

 違う。後継者は姉ではなく、シルフィードの嫡子であるシンデレラだ。今は彼女が病気ということにして、伯爵夫人が代理をしているにすぎない。シンデレラを屋敷に縛り、姉に継がせようと画策しているだけだ。

「ひとりで社交もできないのに、後継者だなんて、笑っちゃうわね」
「なんですって!?」
「お姉さまは、シンデレラには勝てないわ」
「私をあんな女と比べないで!」

 激昂した姉がバッと手を上げるのが見え、リセルはぎゅっと目をつむった。
 ──殴られる……!
 だが一向に覚悟した衝撃が来ず、恐る恐る目を開けると目の前には広い背中があった。

「え……セドリックさま?」

 ──大変! クロードが殴られちゃったの!?
 慌てて様子を見ると、青狼騎士のアクセルが振りあがっている姉の手首をつかみ、彼女は蒼白の顔色でぶるぶる震えていた。
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