悪役令嬢リセルの恋
「皇太子に手を上げるとは何事だ。この者を即刻追い出せ。生涯の入宮を禁じる」

 ダンス音楽も鳴りやんだ今、クロードの冷淡な声が静かに響いた。

「ち、違います! 誤解でございます、殿下! 私は妹の性根を正そうとしてただけです! 彼女は姉の私を侮辱したんです……!」
「連れていけ」

 姉は騎士たちに腕をつかまれ、階段を引きずられるようにして上っていく。
 ガコンと扉が開かれ、姉が外に出されていった。それと入れ替わるようにして入ってきた人影がゆっくりと姿を現した。
 瞬間に、リセルは息が止まる思いがした。
 姉の事件もあったため視線を集めていたそこは、はからずも階段を下りてくる人物をスターさらしめる。
 輝くブロンドの髪。瞳の色と同じサファイア色のドレス。希望に満ちた瞳はキラキラと輝き、薔薇色の唇は微笑みを作っている。
 誰もが声を失う美しさに、令息も令嬢も見惚れている。
 ──シンデレラ、来ちゃった……。こんなにきれいなんだから、クロードもひとめぼれよね……。
 仕方がない。本の通りなのだ。彼は魂を奪われたようにシンデレラに近づき、ダンスを申し込むのだ。
 ──見たくない。
 リセルはうつむき、くっと唇を結んだ。

「リセル、大丈夫だったか?」

 ──えっ?
 ハッとして顔を上げると、クロードが心配げにリセルを見つめていた。

「……シンデレラは?」
「なんのことだ?」
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