悪役令嬢リセルの恋
 夫人と姉がまじまじと見つめ、怪訝そうな声を出した。

「はい。舞踏会で公子さまがお見初めになったご令嬢がおられまして、その方が忘れていかれた靴でございます。これを履くことができるお方を探しております」

 リセルは高ぶる気持ちのまま「ガラスの靴!」と声に出していた。

「ブロンドヘアの大変お美しいお方だったと、公子さまはおっしゃいました」
「美しい娘ならば、この子に間違いありませんわ」

 夫人が姉を示した。姉の髪は茶に近く、ブロンドとはいいがたい。

「ええ、その靴は当然私のものですわ。わざわざ履かなくても分かり切ったことです。だから公子さまにお会いすればいいことですわ」
「いいえ、お履きになってください」

 執事はガラスの靴を姉に差し出した。姉の足と比べれば、明らかにガラスの靴は小さい。

「なによ。こんな靴、履けるわ! 履いて見せるわよ!」

 ぐりぐりと足をねじ込もうとするも、五本指さえも収まらない。
 執事は呆れたように「おやめください。壊れます」といい、ガラスの靴をしまおうとする。

「違うんです。それは絶対に私の靴です。舞踏会で足をひねって腫れたから、履けないだけです!」
「そうですよ。ほら、痛そうでしょう?」

 足を引きずってみせる姉を夫人が庇っている。

「お話になりませんな」

 執事が立ち上がろうとするので、リセルは「お待ちください」と声を上げた。
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