悪役令嬢にならないか?
 金色の豊かにうねる髪と大きなエメラルドグリーンの瞳は見る者を惹きつけ、陶磁のような頬もぷっくりとしている艶やかな唇も、すべてが完璧に整っている女性だ。
 アルヴィンはウォルグの三つ年上の兄で、学園卒業後は父王と共に政務に携わっており、すでに次期国王としての期待が寄せられている。
 そんなエリーサとアルヴィンは、リスティアから見てもお似合いの二人である。
 そしてリスティアも、エリーサとの仲は悪くはない。特別親しいわけでもないが、必要最小限の付き合いはしている。とリスティアは思っている。
 だが今日は、本を読んでいてもチラチラと視線を感じた。この教室にいる生徒は、リスティアがいてもいない者として扱っているはずなのに。
 視線の主が誰であるのか確認するために顔をあげると、エリーサと目が合った。輪の中心にいるような彼女の邪魔をしたつもりはない。そうしないためにも、こうやって教室の隅っこで本を読んでいるのだ。
 リスティアが困って首を傾けると、エリーサは慌てて目を逸らす。
(もしかして、エリーサ様がヒロイン? アルヴィン様の婚約者であれば、その可能性もありそうだけれど……)
 だが、ヒロインは身分差を越えて、王太子や王子と結ばれようとするのだ。身分も見目も知識も性格もすべてにおいて完璧なエリーサが、あのようなヒロインであるわけがない。
 リスティアは再び本に目を落とした。
 ウォルグから借りた本は読んでしまったから、これはメルシーから借りた本である。メルシーも悪役令嬢が登場する本を何冊も持っていた。
 彼女がこのような本を好んで読んでいたのが、意外だった。だけど、悪役令嬢が活躍する本を読むのは、面白い。

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