悪役令嬢にならないか?
 ウォルグから借りた本が面白くて、つい夜ふかしをしてしまった。これでは明日の朝は起きられないかもしれない。起きられたとしても、授業中に居眠りをしてしまうかも。
 そんなことを考えつつ、掛布を肩までしっかりとかけて、眠りについた。
 それでも、いつもと同じ時間に目が覚めたのは、ウォルグのことが気になっていたからだ。いや、正確にはウォルグの言葉である。
 ――悪役令嬢にならないか。
 その言葉が耳にこびりついて離れない。授業を受けていても、つい『悪役令嬢』について考えてしまう。
(悪役令嬢ということは、ヒロインと呼ばれる相手がいるわけよね……。どの方かしら)
 教室の一番後ろの窓際という特等席は、リスティアの指定席のようなものだった。リスティアにとっては特等席だが、他の生徒は、教室の真ん中の席が好きなのだ。真ん中にいれば、自然と人が集まる。
 今も教室には二つの輪ができていた。スルク公爵家のエリーサが中心にいる輪。もう一つの輪には別の令嬢が中心にいる。だがリスティアはその二つの輪から離れ、一人で教室の片隅で本を読んでいた。本の向こう側には、友人たちとの談笑に微笑んでいるエリーサの姿が見える。
 スルク公爵家のエリーサは、この国の第一王子であり王太子であるアルヴィンの婚約者である。そのような彼女が輪の中心にいるのは、なんら不思議でもない。
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