悪役令嬢にならないか?
「君はいつも、あの席で本を読んでいる。特に最近は古代史に興味を持っているよね」
「まあ、詳しいのですね」
「君は気づいてなかったかもしれないが、僕の指定席はあそこだからね」
 彼が指で示した指定席は、リスティアのいつもの場所から、本棚を挟んで背中合わせの場所だった。
 地下書庫は壁際に沿ってずらっと書棚が並び、真ん中にも行儀よく書棚が列になって並んでいる。その列と列の間には、ささやかなソファとテーブルが置いてあり、自由に本を閲覧することができる。
 最近のリスティアは古代史に興味を持っていたため、古代史の書物が並ぶ棚の近くにあるソファに座っているのが多かった。
 その隣の書棚であれば、そこは天文学や薬草学の書物がある場所だ。
「まあ、そうだったのですね。てっきり、ここにはわたくし一人だと思っておりました」
「うん、そうだな」
「では、こちらの本は……」
「ゆっくり読んでいい。どうせ君は、毎日ここに来ているのだろう? 僕も毎日来ている。読み終わったタイミングで僕に返してくれれば、それでいいから」
「ありがとうございます。ほかの方から、こうやって本を薦めていただいたのは初めてですので、とても嬉しいです」
 リスティアはラズベリーのような瞳を柔らかく細めた。
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