悪役令嬢にならないか?
(どうして、わたくしが『悪役令嬢』になる必要があるのかしら……)
 紅茶の入ったカップを手にして口元に近づけると、お茶の爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。ゆっくりとお茶を味わいながら、ウォルグの言葉の意味を考えていた。
 学園の寮には、自室に浴室がついているとても便利な造りになっている。屋敷の客室のような感じだ。
 特別広いわけでもないが、それでも手足を伸ばせる浴槽が部屋についているのは、とてもありがたい。
 リスティアの部屋の隣には、メルシーが控える部屋もあり、二人にとってはそれなりに快適な時間を過ごしている。
 すでにナイトウェアに身を包んだリスティアは、寝台の上で大きな枕背を預けながら、ウォルグから借りた本を読んでいた。
 寝台の脇の小さな机の上には、手元を照らす白熱灯が淡く輝いている。
 そろそろ眠らなければならない時間だとはわかっているのに、頁をめくる手が止まらなかった。
(悪役令嬢って、すごいのね)
 本の中にはリスティアが想像していたものとは違う『悪役令嬢』が描かれていた。
 本の世界の悪役令嬢は、取り巻きを使ってヒロインをいじめ、ヒロインを仲間外れにし、ヒロインを孤立させる。そのように見えているが、実はすべて悪役令嬢が正しい行いをした結果。
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