悪役令嬢にならないか?
 彼女は茶色の髪を低い位置で一つのシニヨンにしていて、見るからに侍女らしい女性であるのだが、昔からリスティア付きということもって、このように二人きりのときはくだけたように話を盛り立ててくれる。これは、リスティア自身も望んだことであるため、それを咎めることはしない。
「ええと。つまり、悪役令嬢って小説のジャンルなのかしら?」
 ウォルグとの関係をこれ以上聞かれても、リスティアは答えに困ってしまう。だから、話題をさりげなく変えてみた。
「そうですね。最近、人気なんですよね、悪役令嬢が出てくるお話が。こう、スカッとするといいますか、ざまぁみろといいますか」
 メルシーは顎に手を当て、何やら思い出している様子。彼女もこのような本を読んでいるのだろうか。
「でも、悪役令嬢って、悪役と言われているくらいだから、悪い人なのでしょう?」
 ノンノンノンとリズミカルにメルシーは右手の人さし指を横に振った。
「そうではないところが、悪役令嬢の面白さなのです。せっかくお借りしたのですから、まずは読んでみてください。ウォルグ殿下が薦めてくださったのですから、読みましょう」
「そうね」
 メルシーの話を聞いただけではよくわからないし、そしてウォルグの誘い方はもっとわからなかった。
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