【書籍化】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
 何だろう、この馬鹿馬鹿しい茶番劇は。

 どっと疲れが押し寄せてくる。

 思い返せば、物心ついてから今まで、まともに休むことなく走り続けてきた。

 幼い頃から侯爵令嬢として厳しく躾けられ、毎日習い事に追われる日々。
 
 三年前。十七歳の時にオスカーの婚約者に選ばれてからは、王族の一員となるべく、さらに自分自身に磨きをかけてきた。

 年相応に遊びたい欲求も、無邪気にふるまいたい気持ちも抑えて。
 
 そうして一生懸命がんばってきた結果が、これだ。

 
 私の人生なんだったんだろう……。

 
 目を閉じると、まぶたの裏にじんわり涙がにじむ。
 
 ズキン、ズキンと、頭が割れるように痛んだ。

 堪らず私はきびすを返し、舞踏ホールの出口を目指し歩き出す。

 すると様子を(うかが)っていた野次馬たちが、私の行く手を配慮してか、左右の壁際に寄った。

 まるでモーセの十戒に出てくる海割りシーンみたいに、人波の中に真っ直ぐな道が出来上がる。そこを足早に歩き去り、会場から廊下に出た。

 
 ……ん? モーセの十戒? って、何だっけ。

 ふと頭に浮かんだ意味不明な言葉。どこで聞いたのかしらと、私は思わず首をかしげた。
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