念願の婚約破棄された悪役令嬢は、なぜか廃嫡寸前の変人王子に執着される
しかし、誰も不審に思うものはいなかったはずだ。

「……と、いうのは嘘だ」

「嘘?」

きょとんとしている私がおかしいのか小さくふふっと笑い、王子が軽く額に口付けを落とす。

「五年ほど前か。
まだ母上が存命だった頃。
オーガストの誕生日パーティに強制的に参加させられた」

王子の腕の中は優しく温かく、ずっと頑なだった心が解けていく。
いや、でも、私は人に心を許すなどあってはならないのだ。

「悪魔憑きが来たと、そこかしこでひそひそ話されて最悪だった。
そしたら、シャローラが」

一度言葉を切り、小さく咳払いして再び王子が口を開く。

「『臭いですわ』……と」

真似が決まったと王子はドヤ顔だが、私はいつもあんな感じなんだろうか。
それだけでも恥ずかしいのに、さらに当時を思い出しているのかくすくすと笑われたら堪らない。

「わ、笑わないでください」

「わるい、わるい」

笑いすぎて出た涙を、眼鏡を少し上げて人差し指の背で彼は拭った。

「最初は誰もが、俺のことを言っているのだろうと思っていたし、俺もそう思っていた。
惨めになっていたらさらにシャローラは、『人の陰口を言って喜ぶ魔物が交ざっているので、酷い臭いがしますわ。
こんな悪臭、私には耐えられませんので、失礼させていただきますわ』って、さっさと帰った」
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