□TRIFLE□編集者は恋をする□
「そろそろ新田さんが呼んでくれたタクシーが来たみたいなんで、私行きますね」
美咲さんはホテルのロビーの入口を見ながらそう言う。
「あ、はい……。今日は本当にありがとうございました」
慌ててもう一度頭を下げると、美咲さんは何かを思い出したように、「あ」と声をあげた。
「あ、そうだ平井さん。私、匠と別れませんから」
美咲さんの言葉に、思わず私は凍りつく。
わかりやすいくらい表情の強張った私に向かって静かに微笑みながら会釈をする目の前の美しい人に、ぞっとした。
……知ってるんだ。
この人は、私と片桐の間に何かあったことを知ってるんだ。
美咲さんは私に背を向けると、何事もなかったかのように入口で待つタクシーに向かって歩き出す。
その平然とした態度が、なんだかとても怖かった。
彼女への罪悪感よりも先に、いいようのない不安感が胸を覆った。