□TRIFLE□編集者は恋をする□
 
『……わかった』

なにも事情も聞かぬまま、片桐は低い声で短く言った。

「助けてって、平井ちゃん人聞き悪いなぁ」

完璧に酔っぱらっている岩本さんは、こんなに私が嫌がっているのに面白がるようにニヤニヤ笑っていた。
服の中に滑り込ませた手のひらを動かす。

「や!本当にいい加減に……っ!!」

そう怒鳴ろうとした時、個室の壁の向こうから大きな足音が近づいてきた。

突然、ガタンと大きな音をたてて開いた扉に驚いて顔を上げる。そこには片桐が立っていた。

「片桐……?」

彼は岩本さんに後ろから抱きつかれている私を見て舌打ちした。

「すいません。うちの平井、連れて帰ります」

岩本さんの事を見下ろしながら、相手を威圧するような低い声でそう言った。

「な、なんだよいきなり……」

突然現れた背の高い男に岩本さんがごくりと喉を上下させた。
彼の端正で凄味のある顔に睨まれてその迫力に臆したのか、岩本さんの手が私の服の中からさっと引っ込む。

岩本さんを無視して、片桐は私の腕を掴んで強引に立ち上がらせる。そして私の事を担ぐようにして店の出口へと向かった。

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