□TRIFLE□編集者は恋をする□
「……触られた」
こんな事、彼女がいる片桐に言ったってしょうがないのに。
こうやって助けに来てくれただけで充分なのに。
それなのに、私は自分で思っているよりもずっとよくばりだ。
片桐になぐさめて欲しくて、仕方がなかった。
岩本さんの手の感触が残るこの身体を、どうにかしてほしくてたまらなかった。
「手とか、肩とか、ベタベタ触られて、すごくイヤだった……」
私の弱音に片桐は短く舌打ちをすると、車を止めた。
もう家についたのかな、と不思議に思い顔を上げると、そこは見覚えの無い細い路地。
「触られたの、手?」
片桐は助手席に居座る私に覆いかぶさるようにして、耳元で低くたずねる。
「う、うん……」
小さく頷くと、片桐はまだ岩本さんの感触が残る私の手を取り、そこにキスをした。
「ん……っ」
驚きで小さく声が漏れる。
「あとは、肩?」
助手席で体を強張らせる私を無視して、大きく開いた首元に噛みつくようなキスをする。
静かな車内に小さな音を響かせながら繰り返す口付け。
さっき岩本さんに触られた時とは全く違う感覚が、腰のあたりから背筋へと走って、思わず身をよじった。