□TRIFLE□編集者は恋をする□
 

「あー……。じゃあ、全部聞いちゃったんだ」

「全部かどうかは分かりませんが、美咲さんが美容室を辞めた理由は聞きました」

私がそう言うと、美咲さんはふーっと体の中の物を吐き出すようにため息をついた。

「わかった。私が切るわ」

美咲さんは開き直ったようにきっぱりと言い、私からハサミを受け取った。

「短くしちゃっていいんですね?」

「うん、中途半端に長いと邪魔だから切っちゃって」

ケープを巻いて座るおばちゃんの顔を覗き込むながら優しく言う姿は、いつもの悪態をつく美咲さんとは別人だった。
ハサミを持った途端凛とした美容師の顔になっていた。

髪の毛に指を入れ、全体の毛の流れを確認するように指で梳くと、後ろの毛束を持ってハサミを入れる。
しゃきり、と刃物の擦れる音がして足元におばちゃんの短い毛が散ると、美咲さんは不満げに手を止めた。

「うわ、何このハサミ」

「どうかしましたか?」

「もうちょっとマシなハサミなかったの?画用紙切るんじゃないんだから、こんな刃が分厚いハサミじゃダメだよ」

「でもちゃんと散髪用って書いてるハサミを買ってきたんですよ」

「これだから素人は、何もわかってないんだから」

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