□TRIFLE□編集者は恋をする□
 
「え?」

平井は首を傾げながら首筋に手をやる。

「ここですよ。かゆくないですか?」

そう言って大下が平井の肌に触れようとした時、それまで黙って聞いていた俺は腕を伸ばした。

「きゃ」

平井の目元を手のひらで覆い隠して、自分の胸に平井の背中を預けるように引き寄せる。

俺の身体に寄りかかり空を仰ぐ格好になった平井の首筋には、赤く小さなあと。
そこに一瞬唇を当て、目もとだけで大下に向かって微笑んでみせる。

それだけで、その赤いあとが虫に刺されたせいではないことがわかったんだろう。
ご機嫌に酔っぱらっていた大下の顔から笑みが消えた。

「ちょっと、なに片桐?」

平井が目を覆っていた俺の手をよけて、不思議そうに首を傾げた。

「虫がいたから追い払った」

「虫?」

俺は手を上げてタクシーを捕まえると、ぽかんとしたままの平井を後部座席に押し込んで、大下をちらりと見る。

「俺たちはここで」

そう言うと、大下は全てを把握したように、がっくりと肩を落とした。

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