□TRIFLE□編集者は恋をする□
 
「私だって、片桐以上に好きになる人なんて、もう絶対いないもん。だから、一人で舞い上がって結婚の話なんかして、嫌われたらどうしようって……」

「そんなくだらない遠慮するな。お前が来いっていうなら、実家だってどこだって喜んでいく」

ぶっきらぼうにそう言って、掃出し窓をガラリと開けてひとりベランダに出る。
日差しは強いが、朝の風は乾いていて気持ちがいい。

ベランダの柵にもたれて煙草をふかしていると、ぺたぺたと裸足で平井もベランダに出て来た。

「だからお前、そんな恰好でベランダに出るなよ」

相変わらずTシャツ一枚の無防備な格好の平井を睨むと、「自分だって」と言い返された。

確かに、上半身裸にハーフパンツをはいただけで、とても人に見せられる格好じゃない。
煙草の煙を吐き出しながら苦笑いすると、きゅっと腕を掴まれた。

「ん?」

不思議に思って振り向くと、平井が爪先立ちをして一瞬触れるだけのキスをした。

平井からキスをするなんて珍しい。
驚いて固まる俺に、平井は背伸びをしたまま耳元で「だいすき」と一言囁いて、逃げるように部屋に戻った。

 
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