エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

 荷台に積まれた農機具を見やる。湯浅家の田んぼは、まだ稲刈りの最中だったはず。ご家族も彼がいないと困るのではないのだろうか。

 私は真剣に心配したつもりなのだが、麻人さんは「しっ」と口もとに人差し指に立てる仕草をした後、おどけたように笑った。

「毎日くったくたなんだから、少しさぼらせてくれよ。適当な理由じゃ怒られるけど、『亜椰ちゃんを静岡まで送ってきた』って言えば、兄貴も親もうるさく言えない。さ、乗った乗った」

 忙しなく運転席から下りてきた彼が、私の背中を無理やり押して助手席の方に回ると、ドアを開ける。

 断れる空気ではなくなり、「すみません」と言ってシートに腰を下ろした。

 瑛貴さんには電車を使う予定だと伝えてあったので、【急遽、知人の車で向かうことになりました】と一応メッセージを送った。

 電車でも車でも到着時間はそれほど変わらないはずなので、歩く距離が短くて済む車の方が便利と言えば便利。

 だけど彼が仕事をさぼるのに加担しているようで、居心地が悪い。先日告白された件もあるし……。

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