エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「彼は、ご近所さんなんです。駅に向かう途中、偶然通りかかって乗せてくれると……」
「それだけ?」
「えっ?」
探るような眼差しに、どきりとする。麻人さんに告白されたのを見透かされたような気がしたのだ。
そんなはずないのに……。
「……いや、いい。今の俺にはまだ、きみが誰と親しくしようが文句を言う権利はない。忘れてくれ。行こう」
自分に言い聞かせるように言って、瑛貴さんが歩きだす。私は隣に並ぶ勇気が出ず、彼の一歩後ろについた。
数メートル進んだところで、不意に足を止めた彼が振り返る。
「歩くのが速いか?」
「いえ、そんなことはありませんが」
「だったら隣を歩いてくれ。きみを見失いたくないんだ。昔のように」
静かな声音ながらも、彼の眼差しからは強い意思を感じる。〝見失う〟という表現は、フィンランドで彼と過ごした翌朝、私が何も言わずにホテルの部屋から去ったことを表しているのだろうか。
でも、仮に当時の彼がショックを受けていたなら、どうしてすぐに私を捜さなかったんだろう。
思い出のキッチンだけは約束通り後日送られてきたけれど、なんの手紙もメッセージも添えられていなかった。だから、彼は私への興味を失ったんだと思っていた。
それに、お見合いの件だって……。
色々な疑問が胸に渦巻いたが彼からそれ以上の説明はなく、五分も歩けばホテルに到着した。