エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける
「お待たせしました……!」
「いや、大して待ってない。胡桃ちゃん、こんにちは」
つぶらな瞳を覗き、笑顔で呼びかける。亜椰が丁寧に結ったのだろう、編み込みの髪が愛らしい。
きょとんと瞬きを繰り返した胡桃ちゃんは、人見知りをしているのか、亜椰の首にギュッと抱き着いて顔を隠してしまった。
「胡桃……?」
「ごめん。びっくりさせたかな?」
ふたりで声をかけてみても、胡桃ちゃんは顔を上げない。いきなり仲良くなれるとは思っていなかったので想定内の反応ではあるが、なんとか距離を縮めたい。
俺は少し考えた末に、バッグからクマのぬいぐるみを掴んで取り出す。
クマの前足を使ってトントンと胡桃ちゃんの肩を優しく叩き、ちょっぴり高い声色を使って、「遊ぼうよ」と誘ってみた。
亜椰の肩に埋めていた顔を少しだけずらした胡桃ちゃんが、クマを見て微かに笑顔になる。
「くまさん……」
「これから楽しいところへ行こうよ。ママと、ぼくと……それから、パパも一緒に!」
クマの声でそう誘ってみると、胡桃の目がチラッと俺を見る。
内心、嫌だと言われたらどうしようと冷や汗をかいていたが、胡桃は小さな小さな声で「いく」と言ってくれた。
俺と亜椰は目を見合わせ、お互い安堵の表情になった。