エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

「Tervetuloa.(いらっしゃいませ)」

 店の奥でテーブルを拭いていた物静かそうな中年の男性店主が、私を一瞥する。しかしすぐに視線を落とし、再びテーブルを拭く作業に戻った。

 じっくり家具が見たかったので、積極的に声をかけないでいてくれるのはありがたい。

 さっそく宝探し気分で店内をぶらぶらする。

「この椅子、素敵」

 目に留まったチーク材の椅子を撫で、そのきめ細やかな手触りにうっとりする。長年使い込んだからこその濃い色と艶が、家具好きにはたまらない。興味本位で値札を見た。

「……五千九百ユーロ」

 確か、今は一ユーロ百五十円前後だから……。

 スマホの電卓を叩いて円に換算すると、並んだゼロの数に目が飛び出た。

「八十八万円かぁ。チーク材だもんね……」

 チーク材は、高級ホテルや歴史的建造物、さらに国会議事堂の内装材などにも使われている高級木材。手が届かない価格にため息がこぼれる。

 その後も、気に入った家具を見つけては自分の懐事情と相談し、結局あきらめるというパターンを繰り返すこと十回以上。

 この店には、私のような庶民に手の届く家具は置いていないのかも……。

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