Lost at sea〜不器用御曹司の密かな蜜愛〜
「……仕方ないから許してあげる。あーあ、すごく(しゃく)だけど、宗吾にはなんでか甘くなっちゃうのよね」
「いいのか……?」
「その代わり、家事も育児もちゃんと手伝ってもらうんだから。忙しいから覚悟してよ! 弱音吐いたって逃してあげないんだから! だって宗吾は私の夫で……まーちゃんのパパなんでしょう……?」

 宗吾の頭を撫でながら、六花は彼の耳元でそう呟く。すると宗吾の体が微かに震え、六花の肩のあたりに生温かい感触を覚える。

 ゆっくりと宗吾の顔を両手で挟んで覗き込むと、唇を噛み締めて静かに涙を流している様子を目の当たりにしてしまった。

「ど、どうしたの?」
「ただ嬉しくて……ありがとう」

 六花にもその感情が伝染したのか、微笑みながらも何故か涙が溢れ出す。

 宗吾の顔を引き寄せて自ら唇を重ねた。お互いを求め合うように、深く甘いキスを繰り返していると、寝室から愛生の泣き声が聞こえてくる。

 二人は唇を離してから、顔を見合わせて思わず吹き出した。

「大丈夫だよ、時間はたっぷりあるから。まずはまーちゃんのところに行ってあげないと」

 宗吾はそう言うと体を起こし、六花の腕を引いた。それから手を取り合って寝室に向かう。

 寝室に入ると、ベビーベッドの中で愛生が両手を上げながら必死に泣いていた。六花が抱こうとすると、宗吾がそれを止める。

「俺にやらせて欲しい」
「……抱っこのやり方ってわかる?」

 六花が怪訝な顔で宗吾を見るのと同時に、彼はそっと愛生を抱き上げた。しばらく泣いていたが次第に泣き止み、宗吾の顔をじっと見つめてからにっこりと笑顔を見せた。

「えっ……なんで?」

 確かにあまり人見知りはしないが、こんなにもあっさり宗吾を受け入れるとは思わなかった。

「実はこの間のパーティーの前にご両親の所に挨拶に行ったんだ。六花はもう家を出た後だったけど、ギリギリまでまーちゃんと遊ばせてもらったら、だいぶ慣れてくれたみたいだ」
「挨拶……?」
「六花と一週間過ごさせてもらうことと、改めてプロポーズをするっていう決意報告をね。『これが最後になるかもしれないから』ってまーちゃんとの時間をくれたんだ」

 そう言われてみれば、あの日の両親の言葉は違和感のあるものがたくさんあった。

「あぁ、だからお父さんとお母さんがあんなこと言ったのね! 一週間くらい預かるとか、自分の気持ちに素直になれとか……。出かけるって言ったら『贅沢しなさい』って言われた意味がやっとわかった!」

 六花が呆れたように天を仰ぐと、それを見ていた宗吾は苦笑いをした。
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