絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
フランチェスカは膝の上でぎゅっとこぶしを握り締めた後、勇気を出して顔をあげる。
「あのっ……」
「形ばかりの結婚かもしれませんが、人として俺を信用してください。フランチェスカ……俺は保護者として、あなたの力になりたいと思ってします」
「――」
こちらを見つめるマティアスの目はとても優しかったけれど、目の前でズバッと線を引かれた気がした。
保護者――。
彼の言葉に目の前が真っ白になる。
(あぁ、そうなんだ……)
彼から見て、フランチェスカはまだまだ子供で。とても恋をするような相手ではなくて。
要するに彼にとって手のかかる妹のようなものなのだ。だからこんなに優しくしてくれる。
(そうなのね……)
全身から血の気が引いているのが自分でもわかった。
握りしめた指先が氷のように冷える。胸がぎゅうぎゅうと締め付けられて、息がうまく吸えなくなったが、ここで倒れてまたマティアスに迷惑をかけたくなくて、必死に奥歯を噛みしめた。
「――フランチェスカ?」
彼の前で泣きたくなくて、彼の美しい緑の瞳から逃げるようにうつむいた。
(泣いてはだめよ、フランチェスカ……これ以上マティアス様を煩わせたりしないで……!)
フランチェスカの黄金色の髪がさらさらと肩から零れ落ちて、顔をカーテンのように覆い表情を上手に隠してくれた。
何度か深呼吸した後、フランチェスカはそうっと目の縁に浮かんだ涙を拭い、顔を上げた。
「ありがとうございます、マティアス様。そう言っていただけて、とても心強いです」
精一杯笑って強がったのは、スプーン一杯くらいの意地だったかもしれない。
「――」
マティアスの緑の目と視線が絡み合う。お互いの心の奥底まで覗き込もうとするような、静かだけれど熱い視線。
先に目を逸らしたのはマティアスだった。
少し戸惑ったように目を伏せて、低い声でもう一度、念押しするようにささやいた。
「本当に、あなたの力になりたいと思っているんです」と――。