絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 それから間もなくして、仕立て屋が頼んでいた衣装の見本を大量に持ってタウンハウスへやって来た。

 驚くフランチェスカに、
「店に行くよりも、うちに運んでもらった方がいいでしょう」
 とマティアスが説明する。なんとマティアスがそのように準備していてくれたらしい。

「なにからなにまで、ありがとうございます」
「手配したのはケトー商会ですから」

 マティアスは遠慮がちに微笑み、「では、俺は別室で仕事をしています」と別の部屋に行ってしまった。

(マティアス様……)

 後ろ髪引かれる思いで夫の背中を見つめたが、その気持ちを必死で抑え込む。

(寂しいなんて思ってはだめ。今は『シドニア花祭り』を成功させることを考えなくては!)

 フランチェスカはキリッと表情を引き締めると、決意を燃やすのだった。



 仕立て屋との打ち合わせがひと段落した時、窓の外ではとっぷりと日がくれていた。
 テーブルの上の大量の布やビーズを眺めながら、フランチェスカはため息をつく。

(実家に顔を出しても、お茶を飲む暇もなさそう……)

 そんなことをぼんやりと考えていると、別室で書類仕事をしていたらしいマティアスが顔を覗かせた。

「そろそろヴェルベック家から迎えの馬車が来る頃です。明日の昼に迎えに行くから、今日は実家でゆっくり羽根を伸ばしてください」
「えっ!」

 驚きすぎて声が出てしまった。なにからなにまですべてマティアスが準備してくれているのは嬉しいしありがたいが、段取りがよすぎて気持ちがついていかない。

「でも……」
「もうこんな時間だ。無理はいけません。なんでもひとりでしょい込んではいけない。『シドニア花祭り』はみんなで作っているだと言ったのはあなたでしょう」
「――はい」

 マティアスの言うことはもっともなので、ぐうの音も出なかった。
 結局、迎えに来た馬車にそのまま乗せられてしまった。

「なんならご実家で数日ゆっくりしてはどうですか? 積る話もあるでしょうし」

 ステップに長い足をかけて、座席に座ったフランチェスカに微笑みかけるマティアスは、本気でそう思っているようだ。

「っ……明日、必ず迎えに来てくださいねっ」

 とっさに言い返してしまったのは、このまま置いて行かれるのではないかという恐怖を感じたからだ。
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