絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 ベルベック侯爵家のタウンハウスは王都でも有数の高級住宅地にあり、先祖代々の広大な土地を贅沢に使った広大なお屋敷である。十八年間そこで生活していたはずなのに、久しぶりの実家に妙な懐かしさを覚えていた。
 愛娘の帰省を両親や兄夫婦はとても喜んでくれた。
 フランチェスカを見て『顔色がよくなったんじゃないか』とか『元気そうでよかった』と大さわぎして、なかなかの歓待ぶりだった。

(そういえばこんな家に住んでいたんだって思うの、変な感じ……)

 家族の大歓迎を受けながら、応接室でお茶を飲みながら『シドニア花祭り』の件を話して聞かせる。
 話を聞いた両親が『絶対に行く』と鼻息を荒くしたのは予想の範囲内だったが、反応に驚いたのは兄嫁のエミリアだった。

「BBの久しぶりの新作がお芝居だなんて、しかも義妹夫婦が出演するなんて、なんて素敵なんでしょう~! 絶対、絶対っ、観に行きたいわ~!」
 と、ぎゅっと顔の前で祈るように指を握り込み、瞳を輝かせた。

「チケットはとれるかしら? いつ発売なのかしら。実はBBのファンがお友達にたくさんいるのよ。王都でも話題沸騰なんですっ」
「そ……そうだったの?」

 思った以上の反応に、BBことフランチェスカは驚く。

「野外の劇場でお金をとるつもりはないんです。あくまでもお祭りがメインなので」
「無料なら、王都から押し寄せてきた客をどうさばくか、それなりに準備しておいた方がいいかもしれないね。事故でも起きたら大変だ」

 妻と妹の会話を聞きながら、ジョエルがうんうんとうなずく。

「たとえば馬車でやってきた領外からの休憩所をどこに作るか、宿泊したい客がどのくらいいるか。劇場で混乱が起こらないように、事前に整理券を配ることも考えた方がいいんじゃないかな」
「えっ、ちょっと待ってお兄様っ」

 兄の言葉にフランチェスカは慌てて、侍女に紙とペンを持ってこさせる。

「やることがいっぱいね……!」

 祭りまであと一か月と少し。シドニア領もきたるべき初めてのお祭りに浮足立っている。
 せっせと兄の助言を書きつけていると、ジョエルが手を伸ばしてフランチェスカの頬を撫でた。

「忙しくしているみたいだけど、マティアス殿とは仲良くしている?」
「仲良く……」

 兄の発言に、ぴたりと手が止まる。
 あれこれと想像して、頬が熱くなるのが自分でもわかった。
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