絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「カール、お久しぶりです」

 ドレスの裾をつまんで軽く礼をするフランチェスカに、窓辺に立ち外を眺めていたカールは、少し大げさな笑顔を浮かべ、近づいてきた。

「やぁ、フランチェスカ。元気だったかい。相変わらず美しいね。君が王都に戻ってきたと聞いて、慌てて駆け付けたんだよ」

 慌てて駆け付けてもらうほどの関係ではないが、これも美辞麗句のひとつだ。

 フランチェスカはにっこりと微笑み、
「お会いできてうれしいです」
 と、当たり障りのない返事をする。

「シドニア領はどうかな。田舎暮らしはさぞかし辛いだろうね」

 カールは中指で眼鏡を押し上げながら、切れ長の目を細める。
 カールはジョエルより年上の三十歳である。艶やかな栗色の髪に眼鏡をかけており、どこか冷たい印象を与える容貌だが、顔立ちはそこそこ整っていた。

(カールったら兄さまのことを昔から目の敵にしていたくせに……いったい何の用かしら)

 王女を祖母にもつ従弟同士ということで、カールはジョエルと自分が常に比べられていると思っていたらしい。気にし過ぎだと思うのだが、やれ乗馬の腕前がどうのとか、士官学校での成績がどうのと張り合ってきていた。
 おっとりした性格のジョエルはそのたびに『すごいね、カール』と流していたが、それでも気に入らないのか『お前は顔だけの男だからな』と嫌味を言っていたのを、フランチェスカは忘れていない。

(とは言え、兄さまがカールに劣っていることなんか、なにひとつないのだけれど)

 そんなことを思いつつ、やんわりと微笑んだ。

「楽しく過ごしております。お気遣いありがとうございます」

 辛いだろうと決めつけられると、そんなことはない、こんなふうにすばらしいのだと言い返したくなるが、侯爵はああいえばこう言うの典型的な男なので、わざわざ否定する必要はない。
 腹の奥に生まれた反発心をのみ込んでフランチェスカはニッコリと微笑むと、兄を含めた三人でテーブルに腰を下ろした。
 お茶を淹れたメイドが部屋を出ていくと、ジョエルが口を開く。

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