絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 祖母はとにかくフランチェスカに甘かったので、彼女からは褒められた記憶しかない。そのおかげで今の図太い性格の自分があるのだが――。

「だが君は実際、優秀だ。帝国の公用語であるロドウィック語が話せるだろう?」
「それは……はい」

 世界中の本を読むために、フランチェスカは物心ついた時から家庭教師をつけて語学の勉強をしていた。文化の中心である帝国で出版された本もしかりだ。翻訳をのんびり待っていられないので、必死で学んだ。
 それはただ単に『世界中の本を読みたい!』という欲望が根っこにあるのだが、それがこういったかたちで評価されるとは思わなかった。
 どこか一歩引いたフランチェスカに向かって、カールは深いため息をつく。

「とにかく……皇女の希望は最大限応えよというのが王子の意向だ。なので君以外に適任者はいないと僕は思っている」

 カールの言葉にフランチェスカはなにも言えなくなった。

(なるほど……カールは私で点数稼ぎをしたいのね……)

 従妹が王太子妃つきの女官となれば、カールの将来にはかなりプラスに働くのは間違いない。
 なんと返事していいかわからず黙り込んだフランチェスカを見て、カールは薄い唇に笑みを浮かべた。

「イヤだとは言わせないぞ。君は、僕の弟との結婚も断っただろう。自分にはもったいないとかなんとか理由をつけて、結局辺境のケダモノ中将のところに嫁入りした。うちに恥をかかせたんだ、当然償ってもらう必要がある」

 カールの指摘に心臓が跳ねる。
 そう、確かにフランチェスカはカールの弟との婚姻は早々に断っていた。嫡男でなくとも公爵令息である。地位も名誉も財産にも問題はなかったが、大層な女好きと評判の男だったので、あっさりお断りしたのだった。

(貴族同士の結婚だもの。割り切るべきだったんでしょうけど)

 だがフランチェスカは心の自由を捨てきれなかった。貴族の娘として非難されてしかるべきなのかもしれない。だがそのわがままを通したおかげで、マティアスという心から好きな人ができたのだ。

 そして今、シドニアを発展させるマティアスの力になりたいと心から思っている。
 フランチェスカはゆっくりと顔をあげ、それからカールに向けて深々と頭を下げた。
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