絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 だが最終的に、フランチェスカは『小説のネタになりそうだから』『とうぶん結婚しなくても許されそう』というその点だけで、王宮に上がることを選んだ気がする。
 なのに断ってしまった。

 今のフランチェスカは『シドニア花祭り』を成功させることで頭がいっぱいだし、なによりマティアスと離れたくないのだ。彼に妻として必要とされていなくても、側にいたかった。

「私、自分のことばかりで恥ずかしいわ。せめて考えさせてくださいって言えばよかった」

 即答で断るなんて、カールの面目を潰してしまっただけでなく、父やジョエルの立場も悪くしてしまったに決まっている。

「ごめんなさい、お兄様……」

 謝罪の言葉を絞り出したところで、胸の奥がぎゅっと苦しくなって涙が浮かんだ。
 それを見たジョエルが慌てて立ち上がり、椅子に座ったまましゅんとうなだれるフランチェスカを抱き寄せる。

「フランチェスカ、泣かないで。どうせ断るなら今日でもうんと先でも一緒だよ。それより僕はお前がマティアス殿をとても大事に思っているとわかって、嬉しい。あの方もお前を妻として愛してくれているんだね」
「――」

 兄の言葉に、フランチェスカは胸を詰まらせながら、唇をかみしめる。

(いいえ、お兄様。それは違うの、私の片思いなのよ……! マティアス様は私を年の離れた妹のようにしか思ってくださらないんだもの!)

 本当は感謝しなければならないのだ。
 押しかけ妻など迷惑千万な自分を、最大限尊重して好きなことをやらせてくれているマティアスに、さらに自分を妻として愛してくれなんて。そんなのはわがままが過ぎる。
 あれこれと望みすぎでバチが当たってしまう。
 そう、頭ではわかっているのだが、なかなか思い切れない。

「フランチェスカ……」

 無言で涙を浮かべる妹の黄金色の髪を優しく指ですきながら、しばらくそのまま立ち尽くしていたのだが――。

「マティアス殿!」
「えっ……?」

 兄の言葉に顔を上げると、ドアを開けたマティアスがその場に凍り付いたように立ち尽くしていた。

「マティアス様……」

 名前を呼ぶと同時に強張った表情のマティアスが大股で近づいて来て、慌てたようにフランチェスカに向かって腕を伸ばす。
 まるで迷子の子供をようやく見つけ再会できたような、そんな姿だった。

「あっ」

 次の瞬間、フランチェスカの体はマティアスの胸の中にすっぽりと納まっていた。
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