絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
マティアスがヴェルベック邸に着いたのは、午前中のお茶の時間が終わるころだった。
来客があるのか、豪華な馬車が停まっている。マティアスは貴族社会から距離を取っているので来客が誰かまではわからない。だがそのいっぺんの隙もない豪奢な馬車の様子から、相当身分の高い人物が訪れている気はする。
(馬車の中で待っていようか)
エントランスでそんなことを考えたところで、マティアスが到着したことを伝え聞いたのだろう。フランチェスカの母である侯爵夫人のエミリアが、ニコニコしながらマティアスを屋敷の中に迎え入れてくれた。
「フランチェスカの元気そうな姿を見せてくれてありがとう。あちらでずいぶん楽しく過ごしているみたいで、ほっとしているわ」
親しげにそう言われて、マティアスは恐縮するしかない。
「いえ、とんでもないことです」
「次はあなたも一緒に遊びに来てちょうだい。フランチェスカからあなたの話を聞くだけじゃなくて、直接お話を聞きたいわ」
エミリアは本気でそう思っているようで、しきりに『夫婦一緒に』と繰り返していた。
「ですが私のような者が……」
「もうっ、謙遜なさらないで」
エミリアは身をひこうとするマティアスの気配を敏感に感じ取って、グイグイと迫ってきた。
フランチェスカは家族にどんなふうにマティアスのことを話したのだろう。
妙に落ち着かない気分になった。
「ところでフランチェスカは?」
話を変えようと問いかけると、
「それが今、ジョエルと一緒にお客様の応対をしているのよ」
「お客様?」
「カール・グラフ・ケッペル侯爵よ。私の一番上の兄の息子で……あぁ、噂をすれば」
侯爵夫人の目線を追いかけると、長い廊下の向こうから眼鏡をかけた長身の男が近づいてくるのが見えた。
「カール、もうお帰りになるの?」
おっとりした侯爵夫人の問いかけに、カールと呼ばれたその男は苛立ったように顔を歪め、
「鞭が手元に会ったら、兄妹とも殴りつけたところだ!」
と、吐き捨てるように言い放った。
「王家の血を引く誉れ高き侯爵家でありながら、兄妹揃ってあの態度……! 貴方たちが甘やかしてばかりだから、あのように生意気に育つのだ!」
「――」
突然の罵声に驚いたのか、それまでにこやかだった侯爵夫人の顔からすうっと色が抜ける。突然の罵声に、彼女の華奢な体がかすかに震え始めた。
それも当たり前だろう。男から頭ごなしに暴力的な態度を取られて、怯えない女性などいない。
来客があるのか、豪華な馬車が停まっている。マティアスは貴族社会から距離を取っているので来客が誰かまではわからない。だがそのいっぺんの隙もない豪奢な馬車の様子から、相当身分の高い人物が訪れている気はする。
(馬車の中で待っていようか)
エントランスでそんなことを考えたところで、マティアスが到着したことを伝え聞いたのだろう。フランチェスカの母である侯爵夫人のエミリアが、ニコニコしながらマティアスを屋敷の中に迎え入れてくれた。
「フランチェスカの元気そうな姿を見せてくれてありがとう。あちらでずいぶん楽しく過ごしているみたいで、ほっとしているわ」
親しげにそう言われて、マティアスは恐縮するしかない。
「いえ、とんでもないことです」
「次はあなたも一緒に遊びに来てちょうだい。フランチェスカからあなたの話を聞くだけじゃなくて、直接お話を聞きたいわ」
エミリアは本気でそう思っているようで、しきりに『夫婦一緒に』と繰り返していた。
「ですが私のような者が……」
「もうっ、謙遜なさらないで」
エミリアは身をひこうとするマティアスの気配を敏感に感じ取って、グイグイと迫ってきた。
フランチェスカは家族にどんなふうにマティアスのことを話したのだろう。
妙に落ち着かない気分になった。
「ところでフランチェスカは?」
話を変えようと問いかけると、
「それが今、ジョエルと一緒にお客様の応対をしているのよ」
「お客様?」
「カール・グラフ・ケッペル侯爵よ。私の一番上の兄の息子で……あぁ、噂をすれば」
侯爵夫人の目線を追いかけると、長い廊下の向こうから眼鏡をかけた長身の男が近づいてくるのが見えた。
「カール、もうお帰りになるの?」
おっとりした侯爵夫人の問いかけに、カールと呼ばれたその男は苛立ったように顔を歪め、
「鞭が手元に会ったら、兄妹とも殴りつけたところだ!」
と、吐き捨てるように言い放った。
「王家の血を引く誉れ高き侯爵家でありながら、兄妹揃ってあの態度……! 貴方たちが甘やかしてばかりだから、あのように生意気に育つのだ!」
「――」
突然の罵声に驚いたのか、それまでにこやかだった侯爵夫人の顔からすうっと色が抜ける。突然の罵声に、彼女の華奢な体がかすかに震え始めた。
それも当たり前だろう。男から頭ごなしに暴力的な態度を取られて、怯えない女性などいない。