絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 マティアスが驚いたように目を見開き、丁寧に手紙を畳むと、手持無沙汰のように椅子の上で長い足を組んだ。

「放火を指示したのは、俺への個人的な恨みと『シドニア花祭り』が失敗すればフランチェスカが王都にすんなり戻ってくると考えたかららしいが……とにかく短絡的だ」
「実質廃嫡でしょう。公爵家にはほかにも男子がいますから問題ないかと」

 マティアスは『廃嫡』と聞いて哀れみの表情になったが、フランチェスカはまったく同情していない。
 ちなみに公爵夫人の息子はカールだけだったので、彼女の今後も厳しいものになるだろう。
 そう――。
『シドニア花祭り』の会場である中央広場に火を放ったのは、なんとカールの雇ったごろつきだったのだ。あちこちの酒場でさぐりを入れていたルイスが、急に借金を全額返済して女遊びをしている男がいるという情報を聞きつけ、事情聴取から逮捕に至った。

『ケッペル侯爵がもうちょっと気前のいい男だったら、放火犯を国外に逃がして足はつかなかったんでしょうけどね。ケチだったんですよね~』とルイスは肩をすくめていた。
 おまけにマティアス宛てに送った脅迫状も王都の有名文具店の特注品で、カールにたどり着くのにそれほど時間はかからなかったらしい。なにもかもが迂闊である。
 誰にでも高圧的で威張り散らす男だったので、彼をわざわざかばいたてる人間はいなかったのだとか。

「死傷者が出なかったからよかったものの、命があるだけ儲けものだと思ってもらいたいくらいです」

 もし領民に取り返しのつかない被害が出ていたら――そう思うとゾッとする。
 今回のことは運がよかっただけだ。ぷりぷりと目を吊り上げるフランチェスカを見て、マティアスは「そうだな」と、重々しくうなずいた。

(まぁ、口止め料も兼ねているからこそ賠償金はものすごい金額だし……そのお金を町の発展に回せると思えば、呑み込めなくもないけれど)

 そんなことを考えていると、
「フランチェスカ」
 空気を変えるように、マティアスが甘く低い声で名前を呼んだ。
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