絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 長身の彼から繰り出される声は、艶があり色気がある。
 ハッとして顔をあげると、長い足を組んだマティアスがにこやかに微笑みつつ「おいで」と両手を広げていた。
 たったそれだけでフランチェスカの胸は甘くときめく。
 カールのことを考えて、イライラに囚われているのが馬鹿らしくなった。

(あんな馬鹿のことはもうどうでもいいわ)

 フランチェスカはサッとソファーから立ち上がり、夫の膝の上に座って上半身を預けるようにしてもたれかかる。
 彼の首筋に顔をうずめると、かすかに火薬の匂いが鼻先をかすめた。放火の一件もあったので最近ではマティアスが直接訓練を行う機会を増やしているのだとか。

(私、王都の貴族たちの香水の香りよりも、こっちの方が好きだわ)

 怪我などしてほしくないという気持ちもあるが、どんなときも自らが先頭に立ち、戦うマティアスをフランチェスカは素敵だと思うし、誇りに思う。
 有事の際は先頭に立つのが貴族の務めなのだから。

 うっとりと身を任せていると、書き物机の上に置かれたポポルファミリーの白猫人形と目が合った。以前フランチェスカが部屋で拾ったものだ。

「そういえば、秋に王都で『ポポルファミリーのおでかけフェスティバル』が開催されるんですって。絶対に行きましょうね」
「あ? ああ……」
「噂によると、自作衣装コンテストもあるんですって。参加しましょう」
「いや……」

 押せ押せのフランチェスカに対して、マティアスがたじたじになりながら視線をうろうろとさまよわせる。

「だって、マティアス様なら優勝間違いなしです。だってこんなに可愛らしいお洋服を作れるんですもの」

 フランチェスカはクスクスと笑いながら、目を細めた。
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