絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
だが結局、フランチェスカはシドニア領に到着早々に昏倒してしまい、体調を取り戻したのは三日後のことだった。
「旦那様は今朝から領内の視察に行っておりまして。フランチェスカ様にご挨拶ができないことを代わってお詫びいたします」
午後のお茶の時間、ダニエルと名乗る家令がフランチェスカの部屋にやってきた。その声を聞いてフランチェスカが押しかけて来た時に、部屋を用意してくれた男性だと気が付いた。
年のころは五十代前半くらいか。綺麗に整えた銀色の髪と思慮深い灰色の目をした痩身の男である。眼鏡の奥の瞳はやんわりと微笑んでいるが、どこか底が知れない雰囲気があった。
(タダ者ではなさそうね)
フランチェスカはそんなことを考えながら、にっこりと微笑んだ。
「到着早々、ご迷惑をおかけました。もうすっかり元気になったので、結婚式の準備を進めてください」
「結婚式ですか……」
その瞬間、ダニエルのニコニコ顔が若干引きつる。空気を仕切りなおそうとしているのか、白い手袋をはめた指で眼鏡をクイッと持ち上げた。
「気になることがあれば、どうぞ遠慮なく話してください、ダニエル」
そう水を向けると、彼は思い切ったように息を吐き、それから目を伏せる。
「実は旦那様にはご結婚の意志がなく……フランチェスカ様のことも、静養いただいた後は王都にお戻りいただくようにと」
「帰りません」
フランチェスカはきっぱりと言い切る。
「――」
ダニエルが笑顔のまま凍り付いた。
「私はこの地で一生を終えるつもりで来たのです。それにもう、今更帰れないわ。いさましい軍人でいらっしゃる中将閣下に到着早々返品されるなんて、どんな恐ろしい女なんだって笑いものになってしまうもの。そうでしょう?」
「旦那様は今朝から領内の視察に行っておりまして。フランチェスカ様にご挨拶ができないことを代わってお詫びいたします」
午後のお茶の時間、ダニエルと名乗る家令がフランチェスカの部屋にやってきた。その声を聞いてフランチェスカが押しかけて来た時に、部屋を用意してくれた男性だと気が付いた。
年のころは五十代前半くらいか。綺麗に整えた銀色の髪と思慮深い灰色の目をした痩身の男である。眼鏡の奥の瞳はやんわりと微笑んでいるが、どこか底が知れない雰囲気があった。
(タダ者ではなさそうね)
フランチェスカはそんなことを考えながら、にっこりと微笑んだ。
「到着早々、ご迷惑をおかけました。もうすっかり元気になったので、結婚式の準備を進めてください」
「結婚式ですか……」
その瞬間、ダニエルのニコニコ顔が若干引きつる。空気を仕切りなおそうとしているのか、白い手袋をはめた指で眼鏡をクイッと持ち上げた。
「気になることがあれば、どうぞ遠慮なく話してください、ダニエル」
そう水を向けると、彼は思い切ったように息を吐き、それから目を伏せる。
「実は旦那様にはご結婚の意志がなく……フランチェスカ様のことも、静養いただいた後は王都にお戻りいただくようにと」
「帰りません」
フランチェスカはきっぱりと言い切る。
「――」
ダニエルが笑顔のまま凍り付いた。
「私はこの地で一生を終えるつもりで来たのです。それにもう、今更帰れないわ。いさましい軍人でいらっしゃる中将閣下に到着早々返品されるなんて、どんな恐ろしい女なんだって笑いものになってしまうもの。そうでしょう?」