絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
自分たちは使える道具のひとつに過ぎないのだ。彼らは自分を人間扱いはしていない。
だから貴族を信じてはいけない。期待するほうがバカなのである。
それがマティアスがこの八年で学んだ教訓だった。
「ジョエル様から、くれぐれも妹をよろしくと手紙が届いていましたね。あの方の妹君なのですから、信じるに値すると思うのですが」
「……」
あの次期侯爵は、マティアスを命の恩人と慕っていて、八年前からずっと折に触れて連絡をよこしてくる。マティアスが返事を送るのは三回に一度くらいだが、それでも義理堅く、マティアスに心のこもった手紙や贈り物を送りつけてくる。信じられないほど義理堅い、そして心のまっすぐな青年なのだ。
(そもそも俺がジョエルを助けに行ったのは、部下を見捨てる上官がムカついただけなんだよな)
八年前、士官学校を卒業したばかりの青年士官を、彼の祖父ほどの年齢だった上官は見捨てて逃げた。助けに行くのは至難の業で、当時は逃げるしか道はなかったのだろう。だがマティアスはそんな上官に反発し『なら俺が助けてやる』と命令を無視してしまったのだ。
本来なら軍法会議ものの命令違反で厳しい処罰を受けるところだったが、助けたジョエルが次期侯爵で王女の孫だったため、逆に爵位と領地を与えられることになった。たたき上げの平民軍人が貴族になってしまった。
そもそもマティアスは、親の顔すら覚えていない帝国から流れてきた戦争孤児だ。食うために十五で軍に入った。そのうち戦場で死ぬだろうと思っていた人生は、八年前から大きく変わってしまったのである。
「……でも、だからって俺なんかに」
思わず泣き言が口を突いて出る。
フランチェスカはなんと十八歳だという。天使か妖精かと見まがうようなお嬢様だ。絶対に釣り合わないし、触るだけで壊れてしまいそうで、本当に恐ろしい。
深々とため息をつくマティアスに、ダニエルはニヤニヤしながら微笑みかけた。
「まぁ、とにかくですよ。現実問題お屋敷に入れてしまったのですから、追い返すことはできません。腹をくくって結婚しましょう」
だから貴族を信じてはいけない。期待するほうがバカなのである。
それがマティアスがこの八年で学んだ教訓だった。
「ジョエル様から、くれぐれも妹をよろしくと手紙が届いていましたね。あの方の妹君なのですから、信じるに値すると思うのですが」
「……」
あの次期侯爵は、マティアスを命の恩人と慕っていて、八年前からずっと折に触れて連絡をよこしてくる。マティアスが返事を送るのは三回に一度くらいだが、それでも義理堅く、マティアスに心のこもった手紙や贈り物を送りつけてくる。信じられないほど義理堅い、そして心のまっすぐな青年なのだ。
(そもそも俺がジョエルを助けに行ったのは、部下を見捨てる上官がムカついただけなんだよな)
八年前、士官学校を卒業したばかりの青年士官を、彼の祖父ほどの年齢だった上官は見捨てて逃げた。助けに行くのは至難の業で、当時は逃げるしか道はなかったのだろう。だがマティアスはそんな上官に反発し『なら俺が助けてやる』と命令を無視してしまったのだ。
本来なら軍法会議ものの命令違反で厳しい処罰を受けるところだったが、助けたジョエルが次期侯爵で王女の孫だったため、逆に爵位と領地を与えられることになった。たたき上げの平民軍人が貴族になってしまった。
そもそもマティアスは、親の顔すら覚えていない帝国から流れてきた戦争孤児だ。食うために十五で軍に入った。そのうち戦場で死ぬだろうと思っていた人生は、八年前から大きく変わってしまったのである。
「……でも、だからって俺なんかに」
思わず泣き言が口を突いて出る。
フランチェスカはなんと十八歳だという。天使か妖精かと見まがうようなお嬢様だ。絶対に釣り合わないし、触るだけで壊れてしまいそうで、本当に恐ろしい。
深々とため息をつくマティアスに、ダニエルはニヤニヤしながら微笑みかけた。
「まぁ、とにかくですよ。現実問題お屋敷に入れてしまったのですから、追い返すことはできません。腹をくくって結婚しましょう」