絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
眼鏡の奥の瞳はキラキラと輝いている。もう逃げ場はないと言っているようだった。
「ダニエル、お前面白がってるだろ……」
「面白がるだなんて。主人の結婚に張り切らない家令はおりません」
「――はぁ」
マティアスはまた深いため息をつく。
「うまくいくはずがないってわかってるのに、どうして……」
思わず泣き言のようなセリフが口を突いて出る。
本当にわけがわからない。
あの侯爵令嬢はいったいなにを考えているのだろうか。
マティアスの王都での評判を知らないはずがないのに、ジョエルもその両親も、なぜ大事なひとり娘を元平民の自分に託そうとするのだろう。
「まぁ、とりあえずやるだけやってみましょう。案外うまくいくかもしれませんよ」
ダニエルはハハハと軽やかに笑うと、「万事お任せください」と言って執務室を出て行ってしまった。
「うまくいくかもって……そんなわけあるかよ……はぁ……疲れる……ストレスがすごい……」
ダニエルが出て行った執務室で、マティアスはまた深々とため息をついた後、自分以外に誰もいるはずがない部屋をきょろきょろと見回し、執務机の引き出しをそうっと開けた。
引き出しの中にはさらにもうひとつ、小さな箱が入っている。
貴重品を入れて保管するためのものだ。執務机の上に丁寧に置くと、恭しく両手で箱を開ける。そして中から『宝物』を慎重につまみあげ、それからそうっと手の中で包み込んだ。
(かわいい……)
それは『ポポルファミリーシリーズ』と呼ばれる小さな黒うさぎの人形だった。
小さな木彫りのウサギに布を張り人間と同じような洋服を着せているその人形は、王都のみならず世界中で愛されている女児用の玩具である。ウサギだけでなく猫や犬、クマなどの動物がありバラエティーに富んでいるシリーズだ。
マティアスは八年前、貴族に『不調法者』『礼儀を知らぬ野良犬』と嘲笑されながら王都を離れるとき、なんとなく――たまたまショーウィンドウに並べられたその小さな人形に心惹かれて購入し、それからずっと、お守りのようにして持ち歩いていた。
「ダニエル、お前面白がってるだろ……」
「面白がるだなんて。主人の結婚に張り切らない家令はおりません」
「――はぁ」
マティアスはまた深いため息をつく。
「うまくいくはずがないってわかってるのに、どうして……」
思わず泣き言のようなセリフが口を突いて出る。
本当にわけがわからない。
あの侯爵令嬢はいったいなにを考えているのだろうか。
マティアスの王都での評判を知らないはずがないのに、ジョエルもその両親も、なぜ大事なひとり娘を元平民の自分に託そうとするのだろう。
「まぁ、とりあえずやるだけやってみましょう。案外うまくいくかもしれませんよ」
ダニエルはハハハと軽やかに笑うと、「万事お任せください」と言って執務室を出て行ってしまった。
「うまくいくかもって……そんなわけあるかよ……はぁ……疲れる……ストレスがすごい……」
ダニエルが出て行った執務室で、マティアスはまた深々とため息をついた後、自分以外に誰もいるはずがない部屋をきょろきょろと見回し、執務机の引き出しをそうっと開けた。
引き出しの中にはさらにもうひとつ、小さな箱が入っている。
貴重品を入れて保管するためのものだ。執務机の上に丁寧に置くと、恭しく両手で箱を開ける。そして中から『宝物』を慎重につまみあげ、それからそうっと手の中で包み込んだ。
(かわいい……)
それは『ポポルファミリーシリーズ』と呼ばれる小さな黒うさぎの人形だった。
小さな木彫りのウサギに布を張り人間と同じような洋服を着せているその人形は、王都のみならず世界中で愛されている女児用の玩具である。ウサギだけでなく猫や犬、クマなどの動物がありバラエティーに富んでいるシリーズだ。
マティアスは八年前、貴族に『不調法者』『礼儀を知らぬ野良犬』と嘲笑されながら王都を離れるとき、なんとなく――たまたまショーウィンドウに並べられたその小さな人形に心惹かれて購入し、それからずっと、お守りのようにして持ち歩いていた。