絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「え……は……? ベッドに天使が……」

 背中に天使の翼か妖精の羽根が生えているのではないか。
 何度かぎゅっと目を閉じたり開けたりしたが、夢から覚める気配はない。
 マティアスは大きく深呼吸してフランチェスカの枕元に腰を下ろした。
 そうやってしばらくフランチェスカの寝顔を見つめていると、次第に落ち着きを取り戻し始める。

「疲れたんだろう……当然だな」

 象牙のような滑らかな頬にかかる髪を指でかき分けながら、マティアスは目を細めた。

 フランチェスカは生まれつき体が弱く、医者からは十年生きられないだろうと言われていたらしい。なのでジョエルや両親は、彼女を普通の貴族の娘のように育てず、それこそ珠のように慈しみながら育てたのだとか。
 だが彼女はその寿命を乗り越え、花のように美しく育った。
 そうなれば侯爵令嬢は結婚しなければならない。資産はあるのだから、独身のまま実家で過ごさせればいいと思うのだが、それは平民の考えなのだろう。
 力ある貴族であっても、その世界の常識から外れることができない。そればかりはどうしようもないことなのだ。

『フランチェスカが君と結婚すると言い出したのは、王都中のめぼしい貴族や豪商との結婚を断って、どうしようかと途方に暮れていた矢先のことなんだ。帝国貴族も考えたが、そうなるともう二度と娘には会えなくなるかもしれないだろう? だから今はホッとしている。一般的な貴族の娘とは少し違うかもしれないが、優しくて素直ないい子だよ。娘のことをよろしく頼む。大事にしてやって欲しい』

 結婚式に参列してくれた侯爵にそう言われたときは、恐縮するやらなんやらでうなずくことしかできなかったが、やはりフランチェスカは少し変わっている。
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